きまぐれな微笑み 6
素肌を撫でる微かな風に、は身震いし目覚めた。
背伸びして大きく息を吸い込むと、微かな臭気が、鼻腔をくすぐり、の意識をより鮮明にした。
その臭気は、記憶の中に今なお根強く横たわる嗅ぎなれた匂いだった。
――くさっ!これって……? まさか!!??
慌てて身支度を整え、倉庫に続く階段を見上げると、フタが開いている。
確かに閉めたはずだったが、鍵をした記憶はない。
記憶に残る過去の匂い。鼻腔を刺激する匂いは、今現実に入り口から微かに漂ってくる。
は、動揺した。様々な思いが心に広がり、何をどう捉えればよいのか分からなくなっていった。
――まさか、み、見られた?
そんなーきゃっ!!恥ずかしいけど……ドキドキしちゃう。
こ、この臭さ……精液だよね?
じゃーナニ?ゾロ……覗きながら、シコシコ?
わ、笑える……。笑ってる場合じゃないってーーー!!!イヤーーーーーッ!!!
頬を染め、色々な感情に振り回されながら、ふらふらと階段を昇る。
のM属性からか、秘所は、知らず知らずのうちに疼き、湿りをおびていく。
一歩上がるごとに、くちゅくちゅとクレバスが擦れ、否が応でも、発情しているメスの体であることを、本人に教えた。
荒い息をあげ、立っていられなくなったは、最後の数歩は這うように階段を昇りきった。
の目に映るゾロの体躯。ゾロは酒樽にもたれ深く寝入っていた。
匂いのもとは、ゾロの周辺からより強く漂ってくるようだ。ゾロのそばに落ちているボロキレがもっとも怪しかった。
ゾロを注意深く観察してみると、右手にかすかにこびりつき、かさかさに乾いたものの痕跡があった。
自慰の始末を、完全にすることすら出来ず眠ってしまったゾロ。
その姿は、ゾロがギリギリの意思を持ってを襲うことを我慢したことを、物語っているようだった。
漂う臭気と思いもよらなかったゾロが自慰行為をしていた事実。
何よりも、久しぶりに嗅ぎ目にする精液は、を狂わせるには充分なものだった。
“ごくり”
の唾の飲み込む音が、静まり返った倉庫内に響く。その音すらも、の欲望を煽る。
――オス……オスの匂い。
ぞくぞくと背筋から這い上がるような淫猥な興奮。ひりひりと痛む足首。
おとこの精だけを望み、はゾロの手にわずかに残る精を指先で弄んだ。
指先についた精液の匂いを嗅ぎ、妖艶な笑みを浮かべるの瞳は、人が変わったかのような色合いを見せていた。
は、ククッと籠った笑いをあげ倉庫内を眺めた。
そして、目に付いた荒縄を使い、酒樽にゾロを容易に抜けぬよう念入りに縛り上げていく。
の顔は、クルーの誰も見たことのない本人すら見たことのない形相をしていた。
それは、の本来持つ性癖“マゾヒズム”とは別に、
ここ二週間の間に薄っすらと意識の下から持ち上げてきた“サディズム”が、芽吹く瞬間だった。
は、酒樽にもたれたままの状態のゾロの上にまたがり、うなだれたゾロのあごを持ち上げ、ぺろりと赤い舌先を覗かせた。
舌先でゾロの唇を舐め、ゾロの下半身を包む腹巻をずらしはじめた。その刺激にゾロは身じろぎし目を覚ました。
を受け止めるゾロの体躯に力が入り、またがるのふとももに筋肉の動きが伝わる。
「なっ! 何してやがる!!!」
「あぁ……起きた?」
「ああ、起きた! ちっ!!!」
盛り上がるゾロの二の腕の筋肉。ゾロは、血管が浮き上がるほど力をこめるのだが、
しばられた上半身は酒樽をゴトゴトと揺するだけで、荒縄は緩む気配すらなかった。
そんなゾロの様子は、ますますの興奮を煽っていく。
は、両手でゾロの頬を包み、舌先をゾロの口内に滑り込ませ、深く味わおうとするのだが、
ゾロは誘いに乗るどころか、頑なに己を縛り付ける荒縄と格闘していた。
ゾロが暴れれば暴れるほど、のドレスのすそがめくりあがり、真っ白なふとももを、あらわにしていく。
ゾロは、その白さに目を奪われ、下腹部が即座に反応をするのに気がつき、動きが止まった。
しかし、それもほんの一瞬のことで、ねっとりとしたキスに我に返り、ますます猛り狂い、酒樽が傾くほどの勢いで暴れた。
ゾロの上に跨っているは、振り落とされそうになり、慌ててゾロの首筋にすがりついた。
「ちょっと、暴れないでよ。念入りに縛ってあるから……諦めなさいって」
「ほどけっ」
憤怒に染まったゾロの一声は、の心に突き刺さるかのようだった。
ゾロの首筋にまわした指先が、白くなっていく。
「……ねぇ? そんなに、私が嫌い? セックスしたくない? 抱きたくない?」
「したくねェわけじゃねェ」
「そうよね。ここ、大きくなってるもの。それに……したんでしょ? 私のを見ながら、一人でしたんでしょ?」
「……!!!」
「ばればれよ? ほらっ……証拠の品」
「だーーーーーーっ!!! 生理現象だ!!! てめェが、んなことやるから勃っただけだ。すぐおさまる」
「ふぅ〜〜〜ん……アヤシイ」
ゾロの『したくねェわけじゃねェ』という物言いの中に、微かな望みを持ったは、淡々とゾロを追い詰めていく。
狂気の宿った眼差しとは裏腹な、軽快な調子をくずさすは、ぐいっとゾロのシャツをたくしあげ、
胸板に指をはわせていく。
「て、てめェ!!! 何しやがる!!!」
「まな板の鯉でしょ。諦めなさいって。ん〜〜さすがに鍛えてるだけあって、いい身体よね」
うっとりとした声色で、指先で肌と筋肉の量感を味わっていくの様子は、ゾロの分身に力強い息吹きを吹き込んでいく。
の秘所は、布越しにゾロの分身の息吹く様を味わい、ゾクゾクとした快感がの背筋を這い上がる。
自分がどれほど興奮しているかすら、にはわかっていなかった。
ゾロもまた押し付けられたの秘所から伝わる熱に、どうしようもなく興奮していき
血流が一箇所に集まるのを抑えきれなかった。
の指先が胸に残る傷跡をなぞり、その後を唇が追い、舌が這う。
触れられることに慣れぬ男ゾロの臨界点は、もうすでに越えつつあった。
ゾロは、己の分身の先から先ほど放出した精液の残滓が漏れ出し下着を濡らしていくのを痛いほど自覚した。
ゾロの筋肉が異様なほど緊張し体躯がガタガタと震える。
刺激を受けた体は、猛烈に精の放出を願うのだが、ゾロの男としてのプライドが許さない。
――勃つんじゃねェ!! 我慢しろ!! げっ!!!
しかし、理性が思えば思うほど、体は裏切り、ゾロの分身ははちきれんばかりに勃起してしまった。
下着を盛り上げる分身は、のショーツをぐいぐいと押し、己の存在をしらしめる。
ゾロを刺激していたは、一瞬息を詰まらせ、次の瞬間深く甘い吐息を吐いた。
鼻にかかった甘い声が、漏れ出していく。
腰の位置をずらしたは、片方の手でゾロの分身を布越しに撫ではじめた。
その途端、鋭い痛みを帯びた甘美な刺激がゾロを襲った。
ゾロの食いしばった歯から唸るような声が漏れ、を益々煽っていく。
「あらあら、ここは素直だこと」
あざ笑うような微笑を浮かべながら、はゾロの瞳を覗き込み続ける。
「したいでしょ? 抱きたいでしょ? いつまで我慢するのかしら?」
「くっ! 」
するすると形に添って撫でられたゾロの分身は、更なる刺激を求めているかのように、ピクピクと小刻みに震える。
じわじわと漏れ出した先走りの汁は、もうすでに丸く布地を染めあげ、さらさらとした布の質感をジクジクとした質感に変えつつあった。
質感の変わる様子は、当然、の指先にも伝わる。
ドクドクと波打つ血潮がの手のひらを打ち、じわじわと広がるシミがなでる指先の動きを鈍くしていく。
強弱をつけた緩慢な指の動きは、ゾロを駆り立てていく。
それと同時に、をも駆り立てていく。
「素直じゃない男……」
は、ゾロの分身を撫でていた手を引っ込めた。そして、ゾロの目を真っ向からにらみつけた。
「素直なのは、ここだけ?」
フフンと鼻先でゾロを軽く笑ったの瞳は、妖しい光をおびていた。
「……っち。てめェが触るからでかくなっただけだろーが。とっとと、どけっ!」
「ダーメ。どかないし、触らない。お願いしなきゃ挿れさせてやらない」
「ああ!? いつ、オレが“挿れさせてください”って、お願いしたんだよ」
「あーっ!言った!今“挿れさせてください”って、言った。じゃ、そういうことで」
ニマッとした笑みを浮かべながら、はゾロの下半身を包む衣服をざっと一気に降ろした。
「うわっ!!!!」
「ひゅ〜〜ご立派だこと。……下も緑なのね」
ゾロの若々しい分身が、濃い緑の草むらににょっきりと勃ちあがった様相は、ご立派としか言いようがなかった。
男のナニを初めて見るわけではないのだが、はちょっとだけ驚いた。
でかいとか初々しいとかでなく、緑の陰毛にしばし目が釘づけになった。
「てめェなにしやがる」
「ん、なにって?」
とぼけた顔をしながらはゾロの分身に指先をかけ、尿道口から零れ落ちる先走りの汁をくちゅくちゅいわせる。
“うっ”と呻くゾロを可笑しそうに見ながら、丸い輪を作った指で分身をすりすりと撫で下ろしていく。
そうしながら、片方の手で、緑の陰毛を掻き分けさわさわと撫で付けていく。
先走りの汁が、こんこんと湧き上がり、の手を汚していく。
ゾロの興奮はに伝わり、の中にぞわぞわとした残虐な心がもたげてくる。
それがまたを煽っていく。
の胸元から零れ落ちないばかりの乳房が張りつめ、先に眠る乳首が徐々に膨らみはじめた。
ゾロの鼻先に、ツンと尖った乳首が、はっきりとした形を現した。誇らしげに。
夢にまでみた乳房。白い肌にすける青白い血管。見え隠れする色濃い乳輪。
――舐めまわしてみてェ。
思いっきり揉みしごいてみてェ。
つまんではじいてみてェ。
ひねりつぶしてみてェ。
しゃぶってみてェ。
何度となく妄想の中でやったことが、ゾロの脳内を満していった。
まじまじと、己の乳房を凝視するゾロの視線に、は容易く気が付き、誇るように胸を突き出す。
ゾロの唇が触れるか触れないかの位置。
すなわち、ゾロが舌先を伸ばせば届く位置に、ぷるぷるとした量感を持つ乳房を差し出し、ゾロを誘う。
先走りの汁を受けてすべらかにリズムよくしごかれる分身からの刺激と揺れる乳房がおりなす視覚からの刺激。
そのどちらもが、ゾロの目を血走らせ鼻息を荒くしていく。
倉庫内は異様な熱気に見舞われていた。
二人の身体から放たれる性的な色香は、抑えようとすることはもはや不可能なことであり、
抑える必要がドコにあるのかすら考えられなくなっていった。
己の中にあったくすぶった想いの正体が掴めないままゾロは、考えるということをあっさり放棄した。
その瞬間、ゾロの食いしばった歯が緩み、鼻から息が抜けていった。
そんなゾロの変化に気が付いたは、胸元から乳房をぽろりと出し、
ゾロの舌先が這うのを待ち構えるかのように優しくゾロの鼻に触れさせた。
「てめェが抱きてェから、ほどけ」
ゾロはぼそりとつぶやいた。
「ダメ」
「んあ!!?? ほどけって言ってんだよ! 」
「イヤ。このままする」
すっと立ち上がり、はするすると身体を覆う邪魔な衣装を脱いでいく。
ゾロの視線など物ともせず、ただ脱ぎ捨てていく。
ゾロの目の前に現れたの裸体。
白い喉からすべらかに続くたっぷりとした乳房。先にぽっちりとした可愛らしい乳首。
すっきりとしたなめらかな腹部。
その下に、一枚だけ残されたショーツの端に、の指先が掛けられたとき、ゴクリと生唾を飲み込む音がした。
ゾロの喉が発した音は、倉庫内に静かに響いていった。
するすると脱いだショーツを指先にひっかけ、は、どう抱く価値あるでしょうと言いた気な面持ちでゾロを見下ろした。
「抱きたいんなら、お願いしなさい」
「はっ??? てめェ寝言は寝て言え!!! 」
2005/04/18
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